海外の板金見積システム|CCC ONEやAudatex、SilverDATの特徴

北米と欧州の板金工場(英語ではコリジョン修理工場と呼ばれます)では、見積をクラウド上で作り、保険会社や部品商とそのままやり取りする仕組みが広く使われています。米国のCCC ONEとMitchell、Soleraが提供するAudatexとQapter、ドイツのSilverDAT 3、スペインのGT Motiveがその代表です。日本の工場が直接導入する機会は少ないものの、写真見積やAIによる見積の下書き、メーカー修理書の参照といった機能の方向は、国内の板金見積システムにも少しずつ入ってきています。この記事では5製品について、各社の公式サイト、プレスリリース、米国証券取引委員会に提出された年次報告書で確認できた事実だけを並べ、日本の自研センター指数による見積と比べます。

この記事で確認した一次情報

海外の板金見積システムの全体像(北米と欧州)

海外の板金見積システムは、北米ではCCC ONEとMitchell、欧州ではAudatex(Solera)、SilverDAT 3(DAT)、GT Motiveが主な製品です。共通するのは、見積を作る道具であると同時に、保険会社と工場、部品の供給元をつなぐ通信の基盤になっている点です。たとえばCCCは2025年12月期の年次報告書で、300社を超える保険会社と約30,500の自動車修理事業者がクラウド上でつながっていると記載しています。Soleraは2026年8月のプレスリリースで、自社のQapterが100か国を超える国の保険会社に使われていると発表しました。日本では保険会社のアジャスターと工場が、自研センターの指数を収録した見積システムを使って協定を進めます。データの出どころとつながり方が国によって違うため、海外の製品をそのまま国内で使う前提にはなっていません。

各社の公式資料を読むと、注力している機能にも共通点があります。写真から見積を下書きするAI、自動車メーカーの修理手順への入り口、車台番号(VIN)からの装備の特定、ADAS(運転支援システム)の点検と調整です。理由ははっきりしています。どれも車の構造が複雑になり、修理の根拠を示す手間が増えたことへの対応だと読めます。

この記事で書いた数値と機能は、2026年10月5日時点で各社の公式サイトと年次報告書に記載されていた内容です。製品名や機能は更新が早いため、導入や提携を検討する場合は各社の最新の資料を確認してください。

海外の板金見積システム5製品の比較表

5製品を、主な展開地域と公式に書かれた特徴、日本での展開の3点で並べると次のようになります。北米の2製品は保険会社とのネットワークを強みにし、欧州の2製品は自動車メーカーの情報をもとにした車両データを前面に出しています。SoleraのAudatexとQapterは、地域をまたいで最も多くの国に展開している製品群です。日本での展開は、Mitchellの日本語版ガイドブックがこのサイトで紹介されていたことを除いて、5社の公式資料からは確認できませんでした。表の「日本での展開」は、確認できなかったものを「公式資料で確認できず」と書いています。提供していないと断定する意味ではありません。

製品(提供会社)主な展開地域公式資料に書かれた特徴日本での展開
CCC ONE
(CCC Intelligent Solutions、米国シカゴ、1980年創業)
米国保険会社300社超と修理事業者約30,500をつなぐクラウド。写真から見積を下書きするAI。OEM修理手順と部品の価格・在庫に接続公式資料で確認できず
Mitchell Cloud Estimating
(Mitchell、Enlyteグループ)
北米パソコン、タブレット、スマートフォンから見積を作成。OEM修理手順へのアクセス。診断とADASキャリブレーションの製品群輸入車鈑金見積りガイドブック「ミッチェル日本語版」を国内で販売していた(現在国内販売停止)
Audatex・Qapter
(Solera、米国テキサス州)
Solera全体で120か国超、Qapterは100か国超の保険会社AIによる損傷見積、3Dの車両グラフィック、装備の自動特定公式資料で確認できず
SilverDAT 3
(DAT、ドイツ、1931年から)
ドイツと欧州各国。中国、韓国、トルコにも現地法人VINから装備を特定。7万を超えるモデルの修理費をメーカー情報をもとに計算。OEM修理手順に直接アクセス現地法人の一覧に日本はなし
GT Estimate
(GT Motive、スペイン)
欧州28か国と南アフリカ、インド、チュニジア、韓国工場向けの見積に加え、フリート・リース会社向けの管理基盤。AIの外部企業が参加するGT Fusion公式資料で確認できず

CCC ONE(CCC Intelligent Solutions)の特徴

CCC ONEは、米国シカゴに本社を置くCCC Intelligent Solutionsが提供する修理工場向けの基盤で、見積と工場の業務管理を同じ画面系列で扱います。CCCは1980年の創業で、2025年12月期の年次報告書(Form 10-K)では、顧客が3万5,000社を超え、そのうち自動車修理事業者が30,500超、部品と診断のサプライヤーが6,000超、保険会社は300社超がネットワークに参加していると説明しています。米国の保険会社が使う指定工場制度(DRP)の大半を自社の技術が支えているとも書いています。見積の機能では、部品のリアルタイムの価格と在庫、自動車メーカー(OEM)の修理手順、保険会社ごとのガイドラインに見積画面からつながる点を挙げています。工場の担当者がモバイルアプリで車の写真と修理情報を撮り、保険会社と見積を電子的にすり合わせる流れです。

AIの使い方も年次報告書に具体的に書かれています。Mobile Jumpstartという機能は、損傷写真と工場ごとの設定をもとに、機械学習で部品と作業を見積にあらかじめ入れておくものです。保険会社向けには、消費者が撮った写真を使う遠隔の査定や、見積行の提案、基準となる見積の作成をAIで自動化する仕組みを提供しています。

顧客とのやり取りでは、CCC Engageがオンラインで予約と見積の作成を始められるようにし、提携する保険会社の窓口から工場の予約を直接入れられると説明しています。顧客から工場への支払いを見積と同じ基盤で受け付ける機能もあります。

CCC ONEの導入割合について

CCCの年次報告書には、米国の工場全体に対する導入割合の記載はありませんでした。公式に確認できたのは「約30,500の自動車修理事業者」と「米国の自動車保険のDRPの大半を支えている」という記載です。「米国の工場の何割が導入」という数字を使う場合は、CCCの最新の発表で確かめてください。

Mitchell Cloud Estimating(Mitchell)の特徴

Mitchell Cloud Estimatingは、米国のMitchellが提供するクラウド型の板金見積で、パソコン、ノートパソコン、タブレット、スマートフォンのどれからでも見積を作れると公式サイトに書かれています。Mitchellは1946年に部品カタログから事業を始めた会社で、現在はEnlyteグループの一員です。公式サイトでは2万を超える組織が日々同社の製品を使っていると紹介しています。修理工場向けの製品群の説明では、工期の短縮と業務の効率化に加え、自動車メーカーの修理手順に簡単にアクセスできることで正しく安全な修理を支えると書いています。診断の分野では、故障コードの特定から、必要なADASキャリブレーションの自動判定、工場内での調整作業までをMitchell Diagnostics Solutionsで扱えると案内しています。

見積と診断、修理手順が同じ会社の製品でそろうため、どの作業を見積に載せるかを判断するときに、故障コードや調整の要否を同じ流れで確かめられます。

日本との関係では、このサイトで輸入車鈑金見積りガイドブック「ミッチェル日本語版」を紹介していました。輸入車の修理と鈑金見積に特化した標準作業時間マニュアルで、米国では長く業界の標準として使われてきたものです。現在は国内販売を停止しています。またスペインのGT Motiveは、2012年にMitchell Internationalと戦略的な提携を結んだと自社の沿革に記載しています。

Mitchellの診断機能の範囲について

Mitchellの公式サイトで確認できたのは、故障コードの特定からADASキャリブレーションまでを扱う診断製品群(Mitchell Diagnostics Solutions)があるという記載です。見積画面にOBDのスキャンツールが組み込まれているかどうかは公式サイトの記載からは読み取れないため、導入を検討する場合はMitchellに確認してください。

Audatex・Qapter(Solera)の特徴

Audatex(オーダテックス)とQapterは、米国テキサス州に本社を置くSoleraの見積製品です。Soleraは2026年8月7日のプレスリリースで、自社を120か国を超える国で事業を行い、28万を超える顧客を持つ会社だと紹介しています。同じリリースでは、Qapterが100か国を超える国の保険会社に使われ、修理工場や査定人、リサイクル部品のネットワークを一つの基盤でつないでいると説明しています。Qapterの見積では、AIによる損傷見積、車両の装備の自動特定、3Dの車両グラフィック、査定の流れ全体での電子的な共同作業を挙げています。Soleraの製品ページでは、画像処理と深層学習で損傷部品を特定し、2分以内に見積を出すと案内しています。

3Dのグラフィックは、部品を車に付いている位置のまま表示し、車体の部位や部品を360度回して確認できる機能として紹介されています。損傷箇所を図から選ぶ操作は、日本のコグニセブンが部品図から損傷部分をクリックして修理方法を選ぶ操作と目的が近いものです。

日本との関係では、audatex.jp というドメインの日本語ページは存在しますが、現在の国内での提供内容は公式資料からは確認できませんでした。国内の工場が輸入車やトラック、二輪車の見積に使える製品としては、コグニビジョンのアセスプロⅡや、ジョーシン・シャックスのEIMSⅢ/EIMSⅣがあります。

Soleraの展開国数について

以前の資料には「90か国」前後の数字も見られますが、2026年8月のSoleraのプレスリリースでは、Solera全体で「120か国超」、Qapterの利用は「100か国超の保険会社」と書かれています。この記事では新しい発表の数字を使っています。

SilverDAT 3(DAT)の特徴

SilverDAT 3は、ドイツのDAT(Deutsche Automobil Treuhand GmbH)が提供する車両データと見積のシステムです。DATは1931年からドイツの自動車業界のデータを整理してきた組織で、出資者はドイツ自動車工業会(VDA)、輸入車メーカーの団体(VDIK)、自動車整備・販売業の中央団体(ZDK)だと公式サイトで説明しています。修理費の計算モジュールでは、現在7万を超えるモデルについて、整備、消耗品の交換、事故修理の見積を自動車メーカーの情報をもとに作れるとしています。部品、作業値、関連する作業、塗装の工数をまとめて計算でき、見積の画面からメーカーの修理手順に直接アクセスできます。塗装の計算方式は、DAT独自のもの、メーカーのもの、契約によってはAZTの方式から選べます。

VINの照会では、17桁の車台番号から、シリーズ、ボディ形状、エンジン、工場出荷時の標準装備とオプション装備を特定できると案内しています。並行輸入車のようにドイツ仕様と違う車は照会の結果で知らせます。便利な仕組みです。料金は1台分のデータ取得につき1.85ユーロ(税別)からで、基本料金や最低購入数はないと資料に書かれています。

展開地域では、DATグループの公式サイトにオーストリア、フランス、イタリア、スペインなど欧州各国のほか、中国、韓国、トルコの現地法人が並んでいます。この一覧に日本はありませんでした。

GT Motive(GT Estimate)の特徴

GT Motiveはスペインに本社を置く見積システムの会社で、工場向けの見積アプリGT Estimateと、フリート・リース会社向けの管理基盤を提供しています。自社の沿革によると、1971年に紙の見積資料を扱う会社として始まり、1998年にデジタル製品の開発を始め、2007年にGT Motiveへ社名を変えてフランスに事務所を開きました。2012年には米国のMitchell Internationalと戦略的な提携を結んでいます。現在は欧州28か国と、南アフリカ、インド、チュニジア、韓国で事業を行い、従業員は300人近くです。GT Estimateは事故修理、機械的な故障、点検整備の費用を計算するアプリで、15日間の無料体験が用意されています。

フリート・リース会社向けには、GT Global for Fleet and Leasingという基盤で、点検整備や故障修理、タイヤの作業の承認を管理できると案内しています。案件の受付から見積、電子請求、完了までを一つの流れで扱い、会社ごとに承認の条件を設定できます。リース会社が修理の可否と金額を工場とすり合わせる場面を想定した仕組みです。

AIの分野では、GT Fusionという外部のAI企業が参加できる「オープンなAIのエコシステム」を運営しています。2022年には、リアルタイムで損害額を見積もるAIの保険テック企業がGT Fusionに参加したと発表しました。工場、保険会社、査定人、フリート会社をつなぐ協調型の流れを設計していると公式サイトで説明しています。

日本の指数による板金見積と海外システムの違い

日本の板金見積は、自研センターが作る「指数」を土台にしています。自研センターの説明では、指数とは事故車修理における標準的な修理作業時間で、主要な国産車と輸入車の構造調査や作業の実態調査を行い、最小単位の作業ごとに算出した単位時間を使う「基表方式」で作っています。指数は、脱着・取替指数、補修塗装指数、運転支援システム再設定・調整指数、外板板金修正指数、内板骨格修正指数の5種類です。作成の前提として、1~2年使用で2~3万キロ走行の車両や、実務経験3年程度の作業者などの条件が決められています。保険会社のアジャスターと工場は、この指数を収録した板金見積システムで見積を作り、協定を進めます。

海外の製品と比べると、違いは作業時間データの出どころにあります。SilverDAT 3は自動車メーカーの情報をもとにした作業値を使うと説明し、CCCは自社が数十年かけて整えた見積データベースを使うと年次報告書に書いています。どちらも保険会社と工場が同じデータを見て話を進めます。ここは日本と同じです。

国をまたいだつながりもあります。自研センターは、損害保険業界の自動車リサーチセンターによる国際組織RCARに1978年から正式メンバーとして加盟しています。RCARには現在18か国から22センターが加盟し、英国のTHATCHAMやドイツのAZTも名を連ねています。SilverDAT 3で選べる塗装計算の方式の一つがAZTのものです。修理性の研究は国際的に共有され、各国の見積データにそれぞれの形で反映されていると考えられます。

指数そのものの詳しい説明は自研センター指数とはで、国内メーカー4社の板金見積システムの違いは板金見積システムの選び方で解説しています。

海外の板金見積システムから日本の工場が取り入れられること

海外の板金見積システムの機能のうち、日本の工場が今の国内システムのまま取り入れられるのは、写真の撮り方の統一、車台番号による仕様の確認、メーカー修理書の参照、ADAS調整の要否の記録、データでのやり取りの5つです。CCCもSolera(Qapter)も写真をもとにAIで見積を下書きする機能を持ちますが、その前提は、撮る角度と枚数がそろった写真です。SilverDAT 3がVINから装備を特定するのは、同じ車種でも装備によって部品と作業が変わるからです。日本でも、車台番号から型式と装備を確かめてから部品を選べば、協定でのやり直しを減らせます。自研センターも2026年時点で運転支援システム再設定・調整指数を作っており、調整作業を見積に載せる根拠をそろえる必要は日本の工場にもあります。

  1. 写真の撮り方を社内でそろえる

    全景4方向、損傷部の近景、車台番号、走行距離の順など、撮る順番と枚数を決めます。担当者が変わっても同じ写真がそろい、アジャスターとの確認が早くなります。

  2. 車台番号で仕様と装備を確かめる

    グレードやオプションで部品が変わる車は、見積の前に車台番号で装備を確認します。輸入車は特に、並行輸入かどうかで部品が変わることがあります。

  3. メーカーの修理書を見積の段階で開く

    交換か修理かの判断、溶接や接着の指定、再使用できない部品を修理書で確かめてから見積に載せます。

  4. ADAS調整の要否を記録する

    センサやカメラの周辺を修理したときは、調整が必要かどうかと実施した内容を見積と作業記録に残します。

  5. 保険会社とのやり取りをデータで残す

    見積、写真、協定の結果を同じ案件番号で保存し、後から根拠を示せるようにします。

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よくある質問

海外の板金見積システムを日本の工場で使えますか?
この記事で確認した5社の公式資料には、日本の工場向けの提供や日本語版の案内は見当たりませんでした。部品価格や作業時間のデータは各国の市場に合わせて作られているため、日本の保険修理で協定に使う前提にはなっていません。国内の保険修理では、自研センターの指数を収録した国内メーカーの板金見積システムを使うのが一般的です。
Mitchell(ミッチェル)の日本語版はまだ買えますか?
このサイトでは輸入車鈑金見積りガイドブック「ミッチェル日本語版」を、輸入車の修理と鈑金見積に特化した標準作業時間マニュアルとして紹介してきましたが、現在は国内販売を停止しています。輸入車の見積には、輸入車・トラック・二輪車に対応したアセスプロⅡや、輸入車に対応したEIMSⅢ/EIMSⅣを検討してください。
海外の見積システムと日本の指数は、何が一番違いますか?
日本では自研センターが国産車と輸入車の構造調査や作業の実態調査を行い、「基表方式」で標準的な修理作業時間(指数)を作っています。SilverDAT 3は自動車メーカーの情報をもとに作業値や部品を積み上げると説明しており、CCCは自社が数十年かけて整えた見積データベースを使うと年次報告書に書いています。作業時間の出どころが国ごと、会社ごとに違う点が大きな差です。
海外ではAIの写真見積がもう使われているのですか?
CCCは年次報告書で、損傷写真と工場ごとの設定をもとに機械学習で部品と作業を見積に下書きする機能(Mobile Jumpstart)を説明しています。SoleraはQapterをAIを使う見積プラットフォームとし、画像処理と深層学習で損傷部品を特定すると案内しています。ただし、どの程度の割合の案件で使われているかは、この記事で確認した資料には書かれていません。
日本の工場が海外の動きから取り入れられることはありますか?
写真の撮り方をそろえる、車台番号で仕様と装備を確かめる、メーカーの修理書を見積の段階で参照する、の3つは今の国内システムでも始められます。どれも海外のシステムが見積画面に組み込んでいる作業で、保険会社との協定の場面で根拠を示しやすくなります。
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参考にした一次情報

この記事は次の一次情報をもとに作成しています(2026年10月5日確認)。

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